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earthquake 09 / スキンシップがなぜ有効なのか?

テレビで、子供たちの心のケアについてよく報道されています。
阪神大震災でもそうでしたが、子供たちのトラウマの問題が、大きな問題とされました。
そこで、PTSDについての研究が発達しはじまめました。あのころに比べたら、非常に大きな発達をしたものですが、残念ながら現段階ではほとんどが、言語アプローチでの対応がほとんどのようです。

テレビを観ていると、専門家の皆様たちが口をそろえて、子供たちへのスキンシップを勧めています。
まったく、そのとおりだと思います。
こういうとき、お母さんが子供たちをしっかりと抱きしめてあげることは、非常に大切です。
また、他人どうしてあっても、すでに現地入りした被災地協働センターの「足湯隊」の活動が効果を出しているのをみてもわかるように、非常に大切なことです。

NPO法人タッチケア支援センターとしても、今すぐ現地に乗り込んで、タッチケア支援をやりたいところなんですが、まだ認可もおりていませんので、もう少し状況を見守りながら、かかわっていこうと思います。

そんなことで、「今、ここ」で、できるささやかなこと。手前味噌で大変お恥ずかしいのですが、2年前から開講しています、エッセンスオブタッチ のテキストに、なぜ、タッチケアやスキンシップが有効であるのかを記した文章がありますので、ここで、皆さんと共有できればと思います。
難しく書きましたが、それほど難しく考える必要はありません。
この裏付けが、現地での活動に、少しでもサポートになればと思います。
自信を以て、スキンシップが広げていってください。



【タッチの3つの側面】
タッチには融合と隔たりという性質があります。そのことから、その側面を3つの角度から見ることができます。

●治療や癒しとしてのタッチ
●コミュニケーションや親愛としてのタッチ
●暴力や抑圧としてのタッチ
 
すなわち、タッチが治療や癒しとなるのか、暴力や抑圧となるのかの違いは、そこに「コミュニケーション」があるかどうかということが大切な鍵となります。「触れてもいいですか?」という許可を得ること。あるいは、相手の表情やそぶりに対して、ゆっくりと、気づきをもって接することが大切です。これぐらいなら大丈夫だろうと勝手な思い込みは禁物です。その人一人一人にとって、感じ方は様々です。ただ、たいていの場合は、心地よく気持ちよく感じられるので、神経質になる必要はないです。大切なことは、そこで、コミュニケーションをとったかどうかという、信頼関係なのです。

【タッチの基本性質】

これは、「愛撫、人を癒す力」の著者で、心理学者の山口創先生の文章を引用したもので、とくに施術に大切と思わることを、まとめてみました。(いずれも、引用は[愛撫、人を癒す力」から)

タッチの基本性質1 :  タッチの同時性と実在性

触れるという触感覚の特徴は、触れる対象と触れる身体がそこに同時に実在するという「同時性」と「実在性」にある。見たり聞いたりするのとは違って、「今、ここで」両者が同時に実在しなければ、なりたたない感覚である。ここから「直接性」という性質が現れ、「肌で感じる」「皮膚感覚で捉える」といった表現が生まれた。だから触感覚は、視覚や聴覚のあり方を基礎づける根源感覚であって、視覚や聴覚と並列的に論じることはできないのである。

*すなわち、スキンシップや、タッチケアには、「今、ここ」で共に存在するという確かな感覚が提供されるということです。生死をさまよった人たちにとって、今、自分は、ここに実在し、生きているのだということを、しかも、自分ひとりではなく、「共に」という感覚を育むことが、いかに大切であるかは、いうまでもありません。

タッチの基本性質2 :  タッチの二重感覚

身体接触には、働きかける主体としての相(能動の相)と、働きかける対象としての相(受動の相)という二重の相がある。このことを、身体を軸に哲学的な考察をしたフランスの哲学者メルロ・ポンティは「二重感覚 SENSATIONS DOUBLES)と呼んだ。彼は「触れる」という行為は(相手に触れるにしても自分に触れるにしても)同時に「触れられる」ことになるのであり、これらが交互に交代するような曖昧な感覚をもたらすと述べている。この特質から、自他の融合感覚が生まれることとなる。対象と隔てる自他の境界感覚が一時的に解除されるのだ。

*このような性質から、スキンシップやタッチケアは、自分一人ではないという感覚、つながっているのだという感覚が、身体にしっかりと根付きます。あたりまえのようなことですが、これは、凄いことだと思います。


次に、少し長くなりますが、肌・皮膚の性質について、述べたいと思います。

【皮膚・肌の基本性質】

1、皮膚の発生学的な成り立ちと、脳神経の関係

皮膚は発生学的には外肺葉から成り、脳や脊髄をはじめとする中枢神経系と同じく形成されます。皮膚に刺激を受けた感覚受容器は、感覚神経(末梢神経)を介して脊髄を上行、視床下部(中枢神経)まで伝達され、そして再びニューロンを代えて大脳皮質に送られ意識化されます。大脳辺縁系・海馬・扁桃体・視床下部、視床、視床下部、脳下垂体への刺激が伝わり、これらの部分は、情動や自律神経系、内分泌系、免疫系をコントロールする中枢であり、全身的に整え、心と体の両面に好ましい影響を与えます。


2、基本的信頼関係の形成と、原初の記憶

適切な形で母親が子供を抱くことで、子供は皮膚感覚を通して、母親との“基本的信頼関係”を形成する。この基本的信頼関係は、社会との、そして、自分自身への信頼を築き絆を形成する大切な鍵となる。皮膚には、こうした信頼への記憶がよびさまされる。
子供の皮膚には、たいてい「心地よい」「あたたかい」「ほっとするような」感覚が記憶として残っている。それは、胎児期にお母さんの子宮の羊水の中に浮かんでいたときから、生まれてからも大切にお母さんの手に抱かれていたころの記憶であり、それは皮膚に宿る、原初の記憶だといえる。
成長してからも、他者から安全・安心な環境で、そっと優しく、適切に触れられたとき、皮膚に宿る、原初の記憶がふと呼び覚まされることがある。それは、基本的信頼関係に由来する、懐かしい感覚であり、触れられることでもたらされるリラクセーションが、とても深く、独特であるのは、こうした背景があると考えられる。


3、豊かな境界としての皮膚の育成  (皮膚という「脳」  山口創  著 (東京書籍)より引用)

皮膚は、外界から自己を守る単なる被膜などではなく、さまざまなねじれや共振性を内包する、繊細なエネルギーに満ちた亜空間なのだ。それを人間関係に敷衍すると、自己という境界感覚をきちんと築いたうえで、他者と共振し結合できるようなリミナリティ(境界性)の領域を確保することである。

すぐにキレないで相手と話し合ったり妥協したり我慢したり解決策を練ることは、まさに皮膚のリミナリティの領域でことを解決することである。これは、頭で理解してもできることではなく、皮膚感覚として感覚的におこなうことである。そのためには、幼少期から友人同士で皮膚を接触される遊びをふんだんにおこない、皮膚感覚を研ぎ澄ませることでしか、境界感覚を養うことはできない。
本来、皮膚はリミナリティとしての厚みや豊かさをもっている。自己の境界と他者の境界が接する身体接触では、自他の間のこのふたつのエネルギーが交じり合うことで特別な状態が生まれる。このエネルギーの交換ができるような、豊かな深みをもつ皮膚のリアリティを養うためには、皮膚を通して自己の発達を促すことが必要だと思う。


以上のようなことから、適切なスキンシップや、タッチケアには、次のような効果が期待できると思います。

身体的効果
  ・からだのぬくもりを実感する (実際に体温があがる)  
  ・血行やリンパの流れがよくなる
  ・神経が穏やかになる ”心地よい・気持ちのいい感覚”
  ・副交感神経優位となることで、相乗的に、内分泌系、免疫系にいい効果をもたらす。
  ・からだの緊張がほぐれる
    *最近の報告では、おだやかに触れられることで、脳内ホルモンのオキシトシンが分泌すると言われています。

精神的効果
  ・自分自身のからだや存在への気づきが深まる
  ・自己肯定感がます 「自分はここにいてていいんだという実感」
  ・一人ではないという安心感
   

社会的効果
  ・つながりを実感する。
  ・他者への思いやりの心が育まれる
  ・自分と他者との間の境界を大切にすることができる。



それでは、実際に、どのように触れていったらいいのかを、被災地をイメージして、記してみます。
(文章では、なかなか、イメージできないかもしれませんが・・・。親子で触れあう場合は、いくつかのプロセスをとばしていただいていいと思います)

1、安全・安心な関係性と、場所を選んでください。
お母さんが触れるのが一番です。でも、もしも、お母さんがおられないのなら、お父さんや祖父母、兄弟姉妹でもいいでしょう。家族がどうしても見つからない場合は、他人でも、大丈夫です。(触れないより全然ましです!) ただし、コミュニケーションと信頼関係を大切にして、ある程度、継続して定期的に触れ続けるようにしてください。途中で中断すると、喪失感を再生産してしまいます。途中で抜けないといけない場合は、誰かに引き継ぐ必要があるでしょう。(ラポールについて)

2、まず、自分の呼吸を感じてください。そうすれば、自然と自分の内側を感じることができます。また、相手の呼吸を観察することで、ごく自然と、共振・共鳴がおこっていきます。(センタリングと共振)

3、大地をしっかり感じます。具体的には、足の裏や下半身をしっかり感じること。この地球の上にお互いがしっかりと立っていることを感じてください。吐く息とともに、今必要ではない、緊張や不安や心配が、大地に流されていきます。そして、この大地に共にあることを感謝しましょう。(グランディング)

4、相手の方の身体の周囲のエネルギーを大切にしてください。そこには、その方のそれまで体験された過去の歴史があります。(感情体や精神体)そこに十分な敬意を示しましょう。とくに、何かをしようとする必要はありません。受け入れるだけで十分です。それは、その方の距離や境界線への敬意となるからです。
(このプロセスは、とくに文章ではわかりにくいと思うので、とばしてくださって結構です)

5、触れてるときは、身体の緊張を手放して、リラックスしましょう。ポイントは、自分もまた相手のからだによって、触れられて、そして、癒されてるのだと感じることです。触れていることと、触れられていることは同じことです。その感覚SENSEにフォーカスすることで、一体感が起こり、つながりが体感されます。そこに気づきがあれば、ごく自然と動きはゆっくりとなるでしょう。(*1秒間に6センチぐらいのスピードが心地よいというふうに、統計で言われてますが、それほど神経質になる必要はありません。落ち着いて、共鳴していれば、ごく自然とゆっくりとなります)

6、圧についても、それほど神経質になる必要はないでしょう。やさしくおだやかにさすれば、神経が休まりますし、一方、ぎゅっと力強く抱きしめるようにすれば、安心感が休まり、リンパや血行もよくなります。大切なのは、今触れている自分自身の感覚から離れないこと。相手をしっかり観察すること。そうすれば、適切な圧が自然と、提供されていることに気が付くでしょう。大切なのは、形式的、単調にならないことです。

7、たとえ部分に触れていたとしても、全体のからだ、そして、その方の存在全体と向き合うようにしてください。
そうすれば、その方が、「自分の存在がここに在る」という感覚が増します。癒しは、全体性から、起こるのです。

8、触れているとき、自分もまた、相手の方から触れられて、そのあたたかさ、やわらかさで、癒されているのだということを感じてください。互いに癒しあうことで、スキンシップ、タッチケアの高価は高まります。

9、触れ終わったら、じょじょに離れていきましょう。離れているときは、適切な距離を持ちましょう。その方が徐々に自立できるように。



・・・・・・・・・


トラウマへの対応は、言語レベルだけでは不十分だといえるでしょう。
なんらかの形で、身体にかかわらなければならない。
それは、トラウマが脳の言語脳のエリアよりも、身体や身体記憶にかかわるエリアに深く関わっているからだといえるでしょう。

スキンシップやタッチケアは、身体にそのまま影響を与えますので、脳の視床下部や大脳辺縁系という身体に係る脳とも、むろん、関係がでてきます。
親子関係など、「安全・安心」な関係性の上でのスキンシップが望ましいと言えますが、やむむをえなくそれが不可能な場合は、上記のプロセスを経て、安全・安心と、コミュニケ―ションを大切にアプローチしてください。
本人が嫌がるときは、絶対に無理強いしてはいけません。
また、あまりにも大きなトラウマを受けた場合は、すでに心とからだの乖離が起こり始めていることもあります。あまりに苦しいので、感じないようにというふうに身体の感覚に蓋をしてしまうのです。
そのような場合は、肌からのアプローチよりも、間接的なボディサイコセラピー的なアプローチが必要になると思います。(そうならないように、今のうちにケアすることが大切だと思うのですが・・・)


被災地のお母さんたち

子供たちに、やさしく触れてあげてください。

いまは、いやな思い出が、いっぱい残っていますが、

だんだん、あたたかくて、やさしい記憶と、変わっていくときが、必ずあります。

少しでも、多くの子供たちが、やさしく抱きしめられますように

そして、いやな思い出や感覚が、お母さんのやさしい手によって、

塗り替えていかれますように・・・。

時間はかかるかもしれませんが、希望をもって

触れ続けてあげてほしいと、切に思います。


NPO 法人タッチケア支援センター(申請中)   中川玲子
http://touchcaresupport.com/

by reiko-koyago | 2011-03-22 12:00

エサレン®ボディワーカーでNPO法人タッチケア支援センター代表理事の中川れい子(旧こやごれーこ)の個人ブログです。2003年から、エサレンやソマティクス、ボディワークや癒し、聖地巡礼、社会問題の徒然を気ままに綴り続けています。Soumyaは”月の女神”をあらわす私のホーリーネイム。


by reiko-koyago