水の観音 -湖北、渡岸寺の十一面観音像と戦国時代ー
姉と姪に誘われて、彼女たちの愛犬とともに琵琶湖の旅に。
10月の後半、紅葉前の琵琶湖は青い空と湖面のきらめきが美しく、快適なドライブとなりました。
結果的に、ぐるっと琵琶湖を一周することに。
おかげで、久しぶりに湖北、高月の渡岸寺(向源寺)の国宝、十一面観音様を拝観することができました。
世界でもっとも美しい観音像。
高校生の時に初めて拝観して以来、個人的にはそう思っています。
この十一面観音さんにお会いするたび、一体だれが、どのような思いで、これほどに美しい観音像を創り出したのだろうか?と震えてしまう。もしかしたら、人が創り出したのではないのではないか? 見るたびに、そう感じるのです。
十一面観音さんの撮影は禁止です。これは以前に購入した絵葉書より。
でも、このお像の美しさは、実物を見ないと伝わらないかも?
今回は、新しい発見がありました。
場所は、JR北陸線、長浜から数駅北にある高月という駅から徒歩10分ほどなのですが、今回は車で訪れることができました。
駐車場から出ると、すぐ隣のお茶屋さんから、1人のおじいさんがでてこられました。
そして、ふと、私達に「教えたいものがあるから、ぜひいらっしゃい」と声かけられたのです。
ほんの数十歩ですが、畦道を歩いていくと、視界が開かれました。
おじさんは、指をさして、私達に教えてくれました。
あの山は、小谷山。
かつて、浅井長政の小谷城のあった小高い山。
あ、小谷城、こんなにすぐ近くだったんだ!
浅井長政は、戦国武将で、織田信長の妹のお市の方が嫁がれて、3人の女の子が生まれました。
茶々・初・江(ごう)
3人姉妹の長女の茶々は、後に豊臣秀吉の側室に。淀君。息子の豊臣秀頼は大阪の陣で、母の淀君とともに自刃。豊臣の滅亡を象徴する女性。
一方、三女の江は、徳川家康の息子で後に徳川二代将軍となった徳川秀忠の正妻に。長男の家光は徳川時代を盤石にした後継者でもあります。
浅井氏の血筋は、お市から、3人の娘を通じて、豊臣と徳川に。そして、徳川将軍へと受け継がれていったのでしすが、その浅井家の居城、小谷城が、十一面観音さんの信仰の厚いこの地域だったのです。
とすれば、もしかすると、浅井長政も、お市の方も、そして、茶々・初・江の三人の娘たちも、この十一面観音様をお詣りしたのかもしれません。。。
が、城主、浅井長政は、姉川の戦いに続き、織田信長に攻め落とされ、最後には小谷城で浅井長政は自刃。そして落城。
その後、この地を受け継いだ織田家臣の柴田勝家のもとに、お市の方は3人の娘をつれて再婚しますが、その柴田勝家も、豊臣軍によって賤ケ岳(しずがだけ)の戦いで滅ぼされます。この時、お市の方も共に落城の炎の中自刃。姉川も、小谷城も、賤ケ岳も、ほぼ同じ湖北のエリア。
この十一面観音信仰の浸透するエリアです。
戦国の時代、戦火の中で、この渡岸寺の十一面観音像は、村人の手により助け出され、深い穴の中に埋められて、戦火での消失をまぬがれて、保存され、今日に至ります。もちろん、戦火は村々を襲い、多くの村民たちも、そして、兵士も命を落とした戦国の時代。。。この湖北は、戦国の戦乱の中心舞台でもありました。
この地には、琵琶湖の中に浮かぶ美しい島、竹生島の弁財天信仰もあります。
弁財天信仰と、観音信仰。
おそらくは、同じルーツをもつ女神信仰だったのでしょう。
母なる湖、琵琶湖に祀られる、水の女神。
渡岸寺の十一面観音さんの左手には、聖水の入った壺がもたれています。
その指の美しいこと。。。
この精妙な美しさが、破損することなく、守られてきたことは、奇跡としかいいようがなのし、この仏像の存在そのものが、奇跡のようなのです(ご覧になれば、わかると思います)
伝承によれば、奈良時代の聖武天皇のころ、疫病が流行り、北陸の白山信仰を開いた泰澄(たいちょう)上人に疫病退散を祈願。十一面観音像を彫らせたとありますが。。。この仏像の様式は、ヒノキの一木造り、翻波式(仏像の衣類などのひだが波のように翻っている様式)。典型的な、平安前期の、密教彫刻の時代の様式なので、おそらく実際に彫られたのは平安前期なのでしょう。すっと伸びた、立ち姿は、どこか西洋的な美しさもあります。おそらくは、大陸か半島の渡来系の影響も。。。
白山信仰そのものが、十一面観音信仰なので、北陸から湖北にかけて白山信仰が影響し、この地に十一面観音信仰が広がったと言います。(もとは、日本海を超えた大陸のシャーマニズムが源流とも言われていますが・・・)渡岸寺のこの観音像以外にも、多くの十一面観音像が、この湖北には残されています。そして、その多くが、戦国時代の戦乱の中、村人によって守られてきていました。(他の十一面観音様は、半分焼けていたり、焼けた地蔵と共にまつられたり、、、湖北の観音様と戦国の業火は切っても切れないのが伝わります)
今は、県庁所在地の大津市から一番遠く、ひなびたエリアに見えますが、もともとは、越前・美濃・尾張へと続く、交通の要地。
商業も盛んで、豊臣秀吉が最初に築城した長浜城も栄えました。織田信長が安土城を建てたのも、湖北のすぐ下のエリア。
黒田官兵衛の黒田氏も、もとは湖北の木ノ本がルーツです。あの、関ヶ原とも近い・・・。
しかし、湖北の魅力は、やはり、伝承と信仰にあるのでしょう。
夢のような神話の世界が、湖北には数多く残されています。
今回は、湖北、琵琶湖の最北端の岸辺をドライブし、そこからのぞむ琵琶湖の湖面の美しさには圧倒されました。
そこに浮かぶ、竹生島。
琵琶湖の湖面のさざ波と反射する光は精妙で、凛とした銀色です。
その微細なバイブレーションは、魂に慈悲深くしみ込む”観音”の故郷。
(余談ですが、西国三十三か所観音霊場の発端となった、奈良の長谷寺の観音様は、近江の国、湖西の高島から流れてきた大木によって彫られたと伝承にあります)
この、渡岸寺の十一面観音像を拝観したあとに、湖北からみた琵琶湖を観ると、あの、完璧な美のバランスの中で立ち尽くす、十一面観音像が著している土地のエネルギーが伝わってきそうで、一瞬震えました。あまりにも精妙すぎて、真・善・美を超えているのです。
お堂では、360度から、お像を拝観することができます。
おそらく、今なお、訪れる人は多くはないでしょうから、どうぞ、ゆっくりお詣りしてください。
(数年前に、はじめて、東京の国立博物館での拝観がかなったそうです)
そもそも、疫病をしずめるために、白山信仰から、十一面観音像が盛んに彫られたということですので、今のコロナの時代にこそ、湖北の十一面観音さんを、お詣りする良い時期なのかもしれません。
次は、この湖北にもう少し滞在してみたいと思います。
できれば、余呉湖や、菅浦集落にも、訪れてみたいものです。
一生に一度は、是非、この観音像に出会ってほしい。
これまで、何度も、このお寺に友人達を案内し、十一面観音像様に出会ってもらってきました。
(ある方は、涙が止まらなかったとおっしゃっていました)
今回は、姉と姪。
さて、何を感じたのか^^。
*
追記
小谷城、浅井長政のことで、思い出しました。
もう一つ。浅井氏の血脈が受け継がれていった女性がいることを。
大阪の陣で自刃した、豊臣秀頼の娘の一人が、出家して尼であるならばということで、徳川によって殺されずに生き延びた女性がいます。
天秀尼。
豊臣秀頼の側室の娘で、正室の千姫(徳川秀忠とお江の間に産まれた娘)の養女となった女性です。
父の秀頼は、茶々の息子なので、浅井長政のひ孫になります。
養母の千姫は、お江の娘なので、こちらも浅井長政の流れ。
天秀尼の母も出家前の名も不明ですが、出家することで命が許され、鎌倉の東慶寺に入り、第20代の住持となります。
そして、徳川家康より、東慶寺を、夫との離縁を臨む女性の「縁切り寺」とすることの許しを得たといいます。
有名な、縁切り寺の尼寺、東慶寺の誕生です。
このお寺の本尊で有名な観音像が「水月観音」。
水と月。
こちらは、鎌倉時代の仏像彫刻です。
水の上にやわらかに泰然と座る美しい観音像です。
この水月観音と、湖北の十一面観音像。
2つの水の観音像が、湖北の浅井とつながるのも、不思議です。
東慶寺の奥には、墓所が広がり、天秀尼の墓もそこにあります。
そして、近代日本の知の巨人、西田幾多郎や、鈴木大拙、小林秀雄、和辻哲郎達のお墓も、この東慶寺に。
湖北から、いきなり、鎌倉に飛んでしまいましたね^^。
*
さらに、湖北から、湖西へとドライブをし、前から訪れたかった白鬚神社さんへ。
近江国で、最も古いと言われる神社です。
ご祭神は、一応、猿田彦さん。
琵琶湖に浮かぶ鳥居は、東を向いているので、おそらくは太陽神?
水と太陽
夕暮れの中、琵琶湖と空の色が刻一刻と移り変わる美しさに見とれながら、帰りました。
コロナの時期の秋。
期せずして、琵琶湖を一周し、湖北に思いを寄せる良い旅となりました。
by reiko-koyago
| 2020-10-31 01:30

エサレン®ボディワーカー、amana space &NPO法人タッチケア支援センター代表の中川れい子(旧:こやごれーこ)メッセージブログです。お問い合わせは mail@amanaspace.com 。 HP http://www.amanaspace.com/ http://touchcaresupport.com/
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